随分と昔の事を思い出していた気がする。
けれど、そんなに大昔と言うほどの出来事じゃない。
そんな折だった。
「おや、来てたのかい、疫病神」
「心外だな……ちょっと立ち寄っただけでそんな風に言われちまうなんて」
しわくちゃの顔、けれど、背筋はシャンとしたご老体の女。
「鯨ばあさん、草ないか?」
直後、後頭部に衝撃が走った。
『浮島のトキワ』 【“It's a wondaful world・3”の続きを読む】
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「昔、竜がいた。竜つっても……ああ、分からないか。そうだな、冗談みたいにデカイトカゲだと思えば良い。二億とか、三億とか、そう言うスケールの昔だ。そんだけ生きてても、連中はデカくなる事しかしなかった。そう言う環境だったのもあるし、それ以外に生き残りの道がなかった。その後、多少の環境変化に対応できる連中が出てきた。そいつらは知識と炎を武器に繁栄を続けた。いつまたそんな冗談みたいにデカイ敵が出てきても良いように。結局、最大の敵は自分らの同胞だった訳だがな。なんだかんだ言っても、多分、そんなトカゲが出てきたら、まぁ、沢山死ぬだろうな。だから夜の闇に炎を灯し、見えない所が無いようにって、闇を追いやった。それが正解だったのかは分からんけれどな」
彼は笑いながら語る。ぼくの知らない言葉、意味。海と空が果てしなく見えていた。
『浮島のトキワ』 【“It's a wondaful world・2”の続きを読む】
「なぜ戦うのか? 純粋にその場が好きだからと望んだ奴、守るべきクニやヒトと叫んだ奴、生き残るためだと刃を掲げた奴、それしか知らなかった奴、殺す事が悦楽の奴、征服しつくしたいからと前進した奴、そう言う運命だった。奪う事は罪か? 違う。善悪、罪罰、強弱、勝敗。そんな物は肯定して納得するための言葉だ。結局、そんな物はごまかし、まやかしだ。間違いなく、他者から過剰に奪い取る。傲慢だった。間違いなく。膨れ上がって慢心した結果、力ある物は怒りに震えた。結果が、これだ。俺も戦った。戦わなくちゃいけなかった。否定はしない。この手で他から過剰なまでに奪った。首を奪った。心の臓を貫いた。身を引き裂いた。体を轢き潰した。消し炭まで燃やした。それしか正しいと証明する手段がなかった。間違いなく殺したし、奪った」
苦しそうに、皺をつくって、本当に悔しそうに、哀しそうに、搾り出していた。
『浮島のトキワ』 【“浮島のトキワ・4”の続きを読む】
「大昔の話だ。この宇宙の果てに向かって大声で『あなたはそこにいますか?』って聞いた奴がいた。なんでそんな事をしたのか、今じゃあ誰も分からないし、知らない。答えが帰ってくるまでには大分時間が経っててな、最初にそれを聞いた奴は誰も残ってなかった。それでも返事は帰ってきたんだ……寂しかったんだろうな。与えられた子供部屋で一人ぼっちだったから。いつだって頭でっかちってのはロマンチストばかりなんだ。部屋に篭って勉強する事しか教えられなかったからかね」
遠く、遠く。深い空を見上げて彼は教えてくれた。少し欠けた月がそこにあった。
『浮島のトキワ』 【“浮島のトキワ・3”の続きを読む】