G・A作戦準備室

サークル重力天使のほめぱげ。主にダラダラとした告知とかキッチリとしたどうでも良い話。      発行する同人誌には18禁の物もありますが、ここは全年齢なのです。

Rubber Edg/承

生きるのに不都合があったわけでもない。
ただ、言いようの無い不安があった。
だが、それの確証は無かった。あるとすれば、疑念だった。
それに気付いた時、まさかと言う思いで押しつぶされそうになった。
対外的に装った『変化しないものの一つである事』の気楽さを知っていたから。
明日からどうすれば良いのかと、絶望した。


疑念? 絶望……何かを忘れている。
だが、そんな思考を中断せざるを得ない事になる。
状況と言うのは人が思った程都合が良い物でもない。
部屋の中央、テーブルの上に放置していた携帯が鳴る。
元々はパトロンが連絡用、緊急用に持っていろと言う事で送りつけてきた代物だ。
時刻確認とスケジュールチェック、メモ用紙代わり便利ツール程度に思っていた携帯。
無論、メールを受信した事は何度かあるが、その大半は業者のチェーンメールや携帯会社の支払い請求だった。
こんな、きちんとした文面、内容のメールは来た事が無かった。


Frm Scarletshow
Sub 非日常へのご招待
―――――――――――――――――――
赤坂 翔子様 宛
この鬱屈とした日本政府の政治論に振り回
されていると存じ上げます。
我々はそうした日本政府を妥当すべく立ち
上がった救国の志士です。
宜しければ貴殿の御力を私達に貸して頂け
ませんか?
宜しければ、このまま空メールで返信して
頂ければ直ぐにでも案内状を此方からお送
り致します。



馬鹿っ丁寧な文面に時代錯誤は雰囲気を感じつつも底抜けの馬鹿がやっているのかと思うに至り。
私は馬鹿をやる事にした。
空メール? 冗談じゃない。送り主を徹底的に批判する文面を三秒で考え付いて、慣れない手つきでメールを打ち込む。


鬱屈と言うが、少なくともゴタクを並べられるだけの余裕のある国民が育つ国家レベルの国家なんだ。
それに文句をつける余裕があるのならば、中央アジアの紛争地帯を知っているのか?
未だにオイル缶一つを巡って村同士で鉄火場になり、物心付くかどうかの幼子が手榴弾を手に走り回っているんだぞ。
で、その感情をぶつける為に名乗るのが『救国の志士』だ? ちゃんちゃら可笑しい話があったものだ。
そんな大昔の革命オタクの共産主義者や尊皇攘夷だと叫ぶバカ同類な連中の国家転覆計画なんかに手を貸せるか。


大体そんな様な事を勢いで書いてしまった。
どうせ、どこかからか流失したメールアドレスの流用、転用をした業者の仕業だ。
そうに違いない。
私は携帯を充電器に差込、時刻を確認する。
午後十一時十三分。寝るには、良い頃合だ。



scenario:Rubber Edg/
boot......



今日も学校には始業時間十分前に学校の教室に到着する。
と言っても、まともに授業に出るつもりなど無い。
学校側もそれを承知している。
誰もが私の事を知っている。
『成績優秀な不良生徒』と。常に何かに怒りや不満を振りまくのが『普通』である女生徒でだと。
仮面を被る訳ではないけれど、そうする以外に方法が無いからだ。
それに必要の無い授業に出る気もない。ならば、部活動くらいはマジメにやろうと。
そうした理由もあって屋上に出る。
無論、そこは誰も知らないはずだった。つい、昨日までは。


「今日もサボりかい?」
教師・朝倉 涼二。この男も随分な物好きだ。
こんな不良学生に興味でもあるのだろうかと疑いたくなる。
「真っ当に考えれば、教師だからねぇ」
考えを見透かされると言うのは物事を隠せない性分と言えど、気分が良い物ではない。
そんな彼は今日も今日とてコーヒーで満たしたビーカーを片手に屋上に現れた。
ノート片手に何をするでもなく空を見ていた私は、今日もかと呆れたような顔でその男の顔を見上げると、素晴らしいまでの空色の下、彼は言う。
「夏はやはりアイスだよな」
口に銜えたタバコの紫煙を当然のように纏い、更に言う。
「特にお日様がゴキゲンな時はアイスに限るな」
昨日、夏日の太陽の下でホットコーヒーをブラックのまま飲んだ次の日に言う言葉かと。
「赤坂もどうだ? 今日はシロップもミルクもあるぞ」
同意する前に空いたビーカーにコーヒーを落としていくこの男の行動が分からない。
そう言う事をされてしまったら、飲むしかないじゃないか。
面倒ながらも立ち上がり、コーーヒーで満たされたビーカーを手にする。
「出されたものは、残さず頂く……」
「うむ、実に殊勝な心がけだ」
ガムシロップを一つ溶かし、昨日の苦味を覚えていたので、恐る恐る一口舐める。
不快感の無い苦味とスッキリとした喉越しには爽快感すら覚える。
「美味しい……」
自然と呟いたその言葉。
タバコを斜に銜えた男はそれに対してニッカリと笑い、当たり前だと言う。
「今日のはブレンドにこだわったしな」
初夏の暖かな空気を孕んだ風が舞い、土の匂いが香った。
今時、珍しい土のグラウンドを持つのは、近辺ではうちの学校だけだろう。
青春の匂い、と言うとまるで美しい代物のように思うが、実際は臭い代物だ。
多分、何年たったとしても良い物とは思わず振り返るのだろう。
「ま、風情は無いがな」
その辺は同意見なのか、教師・朝倉は呟く。けれど、その顔には常に笑顔をたたえていた。
と言うか、この二日間でこの男の表情は笑顔以外には見た事が無い。
そんな不思議な男は更に不思議な行動に出る。
「そういやさ。赤坂」
何かを思い出したかのように朝倉は言い、草臥れた白衣のポケットから灰色の塊を取り出した。
遠目ではただの石にしか見えないそれを私に見せてくれた。
「結構、レアモンだからな。これは」
その石の中に刻まれていたのは鳥の羽毛だった。コーヒーを片手に問う。
「何の羽?」
「世界に十個しかないうちの、『十一個目』だ」
おかしな日本語だが、それが意味する所が何なのか、無論分かっていた。
「ドイツの研究者から睨まれない?」
「バレたら世界中の研究者から睨まれるな。間違いなく」
それは空を目指した物の成れの果て。夢を願って叶わなかった生き物の残滓。
始祖鳥、アーケロプテリクス。それは一世紀以上もの間、生物進化……そのミッシングリンクとも言える存在として横たわっている。
そんな鳥の化石を見てふと疑問が沸く。そして、口を突いて出た言葉がこれだ。
「なんで空を目指したんだろうね」
素朴な疑問だ。鱗を捨て、羽毛に変えて。そこまでして空を目指した奇特な奴。疑問を抱かない訳が無い。
「科学的なウンチクは良いとして、俺はこう思うな。そこに空があったからさ」
意表を突かれた。生物と地学をやってる人間にしては随分とロマンチックな回答だ。
無論、そんな答えは予想してない。
「シンプルで分かりやすいけれど、それって何の科学的根拠も無いでしょ」
苦笑交じりに問いかけると、困った面持ちで新しいタバコを口に銜えていた。
「いや、科学的には割りと真っ当な話なんだが……ウンチク有りで聞きたいのか?」
「聞きたいわね」
「仕方が無いな」
本当に渋々と言った調子で銜えたタバコに火を灯して、彼は私に背を向けて、語り始めた。
「連中の生きてたジュラ紀ってのは、文字通りの弱肉強食の世界で地上で安眠するのはほぼ不可能な状態だった。
そんな状況で元来小型の恐竜が生息するには少々厳しい環境だったのは想像に易い。
まぁ、外敵がいなくて、メシが沢山ある場所に移り住もうとする欲求があるのは人間だけじゃないだろう」
「それが『空』だったと」
「まぁ、そう言う事さ。元々、昆虫は栄養豊富だし、魚も肉も採れない所じゃ人間が食ってるしな」
「人間基準で考えるのもどうかと思うけれど、生物の基本的な行動、欲求と言う面からすれば至極真っ当な説どうも」
そこまで言い切って、手の中に残るコーヒーを口にする。
「ま、所詮トカゲ如きの考え、人間には理解できないわね」
とは言うものの。空があるからと言うシンプルな回答は実に良い。
「さてっと……先ほどの答えを聞いてないな。なんでこんな所にいるんだ? サボりだとしたら、答えを聞きたいな」
一気にコーヒーを呷って、背後の声に回答する。面倒な問いだが、答えはシンプルだ。
空っぽになったビーカーを足元に置き、朝倉を名乗る男に言う。
「ここに『空』があるからよ」
都会の色で薄くなってしまい、『青』と言う色を喪失してしまっている空だとしても。
それでも、このくすんだ色の空の色が好きだ。
何がおかしいのか、この男は口元を手のひらで隠し、笑いを押し殺す。
「何よ、なにか変?」
「いやいや。なんか、初めて笑顔を見たなってね」
ああ、そう言えば。指摘されて理解する。
「ここでもそうだけれど、赤坂は学校にいる間に笑った事無いだろう」
確かに。思えば、『笑う』と言う感情を何処かに置いて行ってしまったのかもしれない。
この男、意外と物を見ているのだなと思う。
「笑えばそれなりに良い顔してるんだから、もう少し笑え」
だが、その一言で「スイッチ」が入った。
「なによ、それ……人を容姿で選り好みする人間なの、アンタ」
「―――! ―――」
何事か言っているが、まるで聞こえない。悪いが、そういう人間ならば、お断りだ。
自らの声が低くなるのを自覚する。
そして、無意識に『瞳の中の異物を取り除く
「これでも、そう言う事が言えるなら、アンタはキチガイの類だ」
私の瞳、紅色の瞳を露出して相変わらず笑顔のままの男に言い放つ。
「アンタみたいなのがいるから学校教育が腐るんだよ!」
足元にあった物を蹴り飛ばし、私は屋上と校舎を隔てる扉に走った。
「赤坂!」
背後で遠く聞こえた叫び声が酷く虚しく木霊した。
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