G・A作戦準備室

サークル重力天使のほめぱげ。主にダラダラとした告知とかキッチリとしたどうでも良い話。      発行する同人誌には18禁の物もありますが、ここは全年齢なのです。

魔法のような音を浴びた午後

久々に筆が走りそうな予感があったので、ちょっとSSでも書きます。
お時間ある人とか、しばしお付き合い頂ければ幸いです。


クラッチを蹴るように踏み込み、小気味の良いシフトノブの感触を味わい、夕焼けの迫る海岸線の道をひた走しらせた。サイドウィンドウから流れ込む潮風が最高の時間を演出してくれる。
まるで誰かの描いた夢のような幻想的な世界。
周囲を走る車は一つとしてなく、けれども孤独感に苛まれるような事もない。
法定速度を守れ、なんて五月蝿く言う者もいやしない。
サカリの猫があげるような甲高いエンジンルームの音に海鳥達のさえずりが交じり、時間すら忘れる。
夢のような演出者達だ。
VISUAL SHOCK! SPEED SHOCK! SOUND SHOCK!
……なんてかつてのキングオブポップが言ったかどうかは知らないけれど、彼らが思い描いた夢のような物を味わうようだ。
もちろん、仮想の出来事なんかじゃない。確かに私はハンドルを握り締め、アクセルを踏み込み、風を感じて、音を聴いている。
ミッドナイトブルーのボディに映り込む黄昏の斜陽。
こういうとネガティブなイメージを持たれる人も多くいると聞くが、私は斜陽によって輝く海原の美しさを知っているし、現に心奪われている。

時代錯誤も甚だしい鋼鉄のボディが風を切り裂き、前へ前へと進む。
だが微動だにしない。日々の手入れもそうだが、こだわって作り込んだマシンだ。
空気の圧を受けても、なお楽しむだけの余裕がこの車にはある。
車は所詮機械。道具でしかない。けれど、使い込んだ道具は得てして、我々が想像も実感もできない力を持つ事がある。こんな事を言うとオカルト信者と後ろ指を指されるのは十分承知だ。
だが、確かにあるのだ。どう作用するのか分からない何かを持っていると感じることが。
半世紀以上前の機械だ。
いつ壊れてもおかしくは無い。けれど、こうして動いている。
空気を押しのけ、風の中を走り抜けている。


海岸線を望む緩やかなカーブ。軽く減速してハンドルを曲げる。回転が落ち込むがそのままのギアで行く。アスファルトを噛むタイヤの感触が伝わってくる。
視界の端に映り込む海原。強く大地に叩き付ける波の白と青のハイトーン。
時間にして秒を切っている。刹那、と表現するのが適切だろうか? しかし十分な時間だ。
まるで写真で切り取ったように網膜に飛び込んできた。
悠久の間続いている波の往復のように、この車も時代を超えてなお持っている力があった。
具体的にどんな力なのかなんてのは、やはり分かりはしない。
……しかし、強いて言うのであれば、乗り手をこれだけ惹き付ける魔性の魅力だろうか。
最高の女性なんて名付けられたこの車らしいと言えばらしい。

極上の車を運転する時と言うのは助手席に女など要らない、とかつて真っ赤な跳ね馬を駆っていた成功者は語っていた。曰く、女が霞んでしまう程にのめり込む程の名車だから、との事だがどうにもその言葉は違うように思えた。
確かにフィールの合う車のアクセルを踏み込む時は何物にも変え難い悦楽をもたらしてくれる。それは至高の麻薬のように。
しかしながら、それはそのマシンだけがもたらしてくれる物ではないのだと分かる。その車の走る場所、時間、そして状況が極上の環境を与えてくれるのだ。
入道雲の狭間を抜けて行くは隼か鳶か。逆光で分からずじまいだが、分からない事が楽しい。こうしてどっちだったかと考えるのすら楽しめる時間。
水平線の果てに対岸の山が見える。
切り裂く夕凪が鼻腔をくすぐる。
打ち寄せる荒波の飛沫が輝いている。
この場所、この時間、この速度が心の中に潜む少年のような心を躍らせるのだ。
まるで魔法だ。
超高速の6ビートを刻むエンジンが演奏し、その時で世界一度きりの最高の駆け抜ける音楽。魔法のような時間。
ただ、心の赴くままに車を走らせているだけで感じられる。どんなオーケストラですら超える事が出来ない音楽と共にある。

けれども、やがてその魔法も解けてしまう。
それはお城の大階段を転げるように駆けたシンデレラの気分。
ガラではない事は承知だが、そう言う風に感じてしまうのだからしょうがない。
苛立ちは無い。一度きりの飛び切りの時間、またここに来て走れば良い。
彼方に沈む太陽に別れを告げ、私は愛車のクラッチを切り、シフトノブをまた小気味良く鳴らし、日常へと戻る。
今度は一人ではなく、彼女も連れて来よう。
その時、彼女はどんな歌を歌うのだろうか。
また一つ楽しみができてしまった私は、ウンと誰に言うでもなく肯定し、ハンドルを家路へと向けた。
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