苦しそうに、皺をつくって、本当に悔しそうに、哀しそうに、搾り出していた。
『浮島のトキワ』
ぼくはトキワ。
そう言うふうに呼ばれた。
ぼくは本当にいろんな事を知らなかった。だから教わった。覚えた。
おねえちゃんは言う。
「私に教えられる事は、それでもほんの少し。もっとトキワが知らなきゃいけない事はあるの」
沢山の事を覚えた。
この世界はぼくがこうしているよりもずっとずっと、ものすごく昔からあって、いろんな事があって、今も続いている。
木でいうと、ぼくは若葉で、ほんの先に静かにいるだけ。
「私も開いたばかりの葉っぱみたいなものだから、教えられるのはそれが限界。トキワが知ることが出来る事の手助けはこれからもできると思うけれど、やっぱり全部はムリだよ」
そういうおねえちゃんは少しだけ静かに笑う。
それがなんだか、ぼくを締め付ける。
分からない。おねえちゃんの事も分からないのに、世界を分かるのは無理なのかもしれない。
「婆さんはどうせまた寝てるんだろ?」
「はい、まだ暫くは」
「……」
緑色の人はおねえちゃんと違って、少し大きくて、真っ黒の服でいた。
うまく表す言葉がわからないけれど、ふしぎだ。
緑色の人は、おねえちゃんといっしょにいる事がおおくて、お姉ちゃんはぼくには見せない顔をする。
それがなんだかさびしい。
緑色の人はきらいじゃない。おねえちゃんも嫌いじゃない。
だけれど、ふたりが一緒にいると、ぼくはなんだか変なことになる。熱くなる。
トキワの中で感情が芽生えている。
最初から、それがあるのだろうと言うのは分かっていた。
彼が来た事で加速している。良い事なのか、悪い事なのか分からない。
トキワはそれが何なのか、きっと理解できず、苦しんでいる。
けれども、私にそれを教えてあげる事はできない。それが悔しい。
キチンと説明する力が、私にはない。それがもどかしい。
不満? 大きく分類するならそう言う物をあの子が抱いているのは理解できる、その不満が何なのか、ワカラナイ。
緑の人は、ぼくと話すとき、目の高さを合わせてくる。話しやすい。
「トキワ、少し外にでよう」
「あ、あの……」
おねえちゃんが、言う。止める。
「……まだここから出したらまずいか?」
「何が起こるか、分かりませんし、どういう影響があるか分からないですよ」
「……少しの間だ。何かあれば何とかする」
緑色の人にかつがれる。あたたかい。この人も、あたたかい。なんだか、きもちがいい。
そうして、ぼくは、外を、見た。
空と海と星が、そこにあった。世界が、そこにあった。
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